妹尾ゆふ子 (更新終了)

翼の帰る処

古王国の末裔で、「過去を視る」という秘められた力を持つ帝国の肖書官ヤエトは、静かに隠居して暮らすことを夢見る三十六歳。政争に巻き込まれて放置されていた北嶺郡へと左遷され、これで安穏に暮らせると思った彼を待ち受けていたのは、いまだ帝国になじめない北嶺の民と、太守として突如赴任してきた皇女でした。皇帝の命により太守の副官に任命されたヤエトは、戦好きの勝ち気な皇女とその騎士団、議論以前の怒鳴りあいを繰り返す北嶺の民の間で、板挟みになりつつ奔走する羽目になります。こうして、ヤエトの隠居とはほど遠い日常が始まりますが、やがて彼は「化鳥の騎士団」の伝説が残るこの北嶺の地に秘められた、ある秘密に気づいてゆくことに……。

ヤエトの「過去視」によって、忘れられた地の秘密が次第に明らかになっていくところが圧巻です。そして、望みは「楽して隠居」のヤエトと男勝りな皇女殿下の取り合わせがポイント。時にはとてつもなく大胆なことをやってのけるのに、その意味と自分に対して寄せられる好意にはとことん鈍感なヤエトが良いです(笑)。

なお、「鏡の中の空」はシリーズ第2部、「歌われぬ約束」はシリーズ第3部になります。人間の世界でも神々の世界でも、とんでもないことが起こり始めているようで、その両方に足を突っ込んでしまっているヤエトの苦難は続きます。

翼の帰る処 上
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] ことき
[出版] 幻狼ファンタジアノベルス(幻冬舎コミックス
[ISBN] 978-4-344-81466-0
Amazon.co.jp
翼の帰る処 下
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] ことき
[出版] 幻狼ファンタジアノベルス(幻冬舎コミックス
[ISBN] 978-4-344-81493-6
Amazon.co.jp
翼の帰る処 2 ―鏡の中の空― 上
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] ことき
[出版] 幻狼ファンタジアノベルス(幻冬舎コミックス
[ISBN] 978-4-344-81707-4
Amazon.co.jp
北嶺郡の復興のために奔走するヤエトの元に、寝耳に水の「悪い知らせ」が飛び込んできます。北嶺郡が国に格上げされることになり、皇女が北嶺王になるとのあわせてヤエトが異例の「出世」を遂げることになったのです。ところが、皇女と共に都で行われる新年祭の式典で、ヤエトは皇帝からさらなる衝撃の一言を告げられたのでした。どんどん遠のく隠居生活、さっさと階段から転げ落ちて死んでおくべきだったかと後悔しながらも、ヤエトは自らがなすべきことに尽力するのでした。 夢は隠居なのに頼られたら断り切れずに動いてしまい、周囲も本人が嫌がっていることを知りつつ頼ってしまう。そんなヤエトの自己および他者へのツッコミが満載で楽しいです。皇女はヤエトの性格を知って予防線を張ってるし、ルーギンはどことなく陰険漫才だし、セルクは天然炸裂だし、表紙に登場のジェイサルドは渋いし、と他の登場人物もさらに楽しいです。と、登場人物と会話の楽しさにかまけているうちに、帝国の後継争いとか、ジェイサルドの名前とそれに関係する秘密とか、いろいろ動き出しました。そして、皇女殿下がとんでもないことなったところで下巻に続きます。
翼の帰る処 2 ―鏡の中の空― 下
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] ことき
[出版] 幻狼ファンタジアノベルス(幻冬舎コミックス
[ISBN] 978-4-344-81740-1
Amazon.co.jp
貴族となったヤエトの領地に潜む盗賊たち。その対処を穏便に済ませるため、密かに盗賊たちと接触したヤエトは、自らの恩寵の力と対になる力を持つ預言者ウィナエと出会います。一方、帝国の後継争いの中で、皇女はヤエトの助けを得ながら、地位を固め生き残るための行動に出ることになります。 登場人物たちの漫才はさらに楽しい下巻です。味音痴のジェイサルドとか、酔っぱらったルーギンとか、新登場でひたすら真面目なファルバーンとか。さらに、ヤエトは無自覚だけど人たらしだし、皇妹殿下の色気というか迫力は強烈だし、ヤエトと対になる力の持ち主ウィナエも異様に存在感があります。あと、先代の黒狼公の人物像も気になるところです。こんな中、帝国の後継争いに加えて、神々と魔物絡みでなにかが起こり始めているようで、今後の展開が楽しみです。
翼の帰る処 3 ―歌われぬ約束― 上
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] ことき
[出版] 幻狼ファンタジアノベルス(幻冬舎コミックス
[ISBN] 978-4-344-82000-5
Amazon.co.jp
翼の帰る処 3 ―歌われぬ約束― 下
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] ことき
[出版] 幻狼ファンタジアノベルス(幻冬舎コミックス
[ISBN] 978-4-344-82076-0
Amazon.co.jp

真世の王

〈銀の声持つ人〉の「力ある言葉」によって創造された世界。しかし、語られたのは理想であり、人間の営みが創り出す現実との矛盾が魔物と化して、世界を危機に陥れていました。世界の東側にある月白領で徴兵され、この魔物たちと戦っていた羊飼いの青年ウルバンは、戦場で命を救った領王ソグヤム――言葉の力で魔物に対抗することを考えていた――とともに王都へと赴き、そこで幼なじみのジェンと再会します。今は竜使――純粋な「力」であり、人が干渉してはじめて意味をそなえる存在であるという「竜」と語る者――となったジェンはウルバンに、北方漆黒領の最後の姫君を守ってくれるよう頼みます。この、エスタシアという名の姫君こそが、世界が滅亡した「後」に、世界を語り直すという「真世の王」になるべく育てられた者だったのでした。こうして彼らの、世界の滅亡と再生をめぐる物語は始まります。すべての鍵となるのは、世界を支える「真実の言葉」と、真世の王が世界を語るための「真王の玉座」……。

「力ある言葉」で語られることで創造された世界の、滅亡と再生の物語です。

真世の王 上 黒竜の書
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] 金田榮路
[出版] EXノベルズ(スクウェア・エニックス
[ISBN] 978-4-7575-0702-9
Amazon.co.jp
真世の王 下 白竜の書
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] 金田榮路
[出版] EXノベルズ(スクウェア・エニックス
[ISBN] 978-4-7575-0703-6
Amazon.co.jp

風の名前

かつて生命を生み出した女神が、衰えゆく中で産み落としたという「長虫」と呼ばれる幻獣は、出会うものすべてを破壊しながら、世界の果てに向かって前進しつづけていました。そして、長虫によって破壊された生命の女神の神殿で出会った、名前を持たない妖魔使いと、大巫女としての名前を受け継いだばかりの少女は、それぞれの思惑から、長虫を追って旅立ちます。世界の果てで、二人は何を見ることになるのでしょうか?

名前の力が存在する世界が舞台のファンタジーです(なので、「名前を持たない」ことや「名前を受け継ぐ」ことには、とても大きな意味があります)。原初の世界の香りとでもいえばいいのでしょうか、素朴で、朝靄の中のような雰囲気が漂っている作品です。

風の名前
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] 春日聖生
[出版] ファンタジーの森(プランニングハウス)
[ISBN] 978-4-939073-03-8
Amazon.co.jp

魔法の庭

「風の名前」と同じ世界が舞台のファンタジーです。同じ世界といっても、時代はずっと後で、「風の名前」が神話の時代に相当するぐらい隔たっています。そして今度は、「名前」に加えて、「歌」が重要なテーマになってます。

南方からの侵略を食い止めるため、呪いの言葉で北の大地を氷に閉ざし、「魔法の庭」でただ一人で想い人を待ち続けている〈氷姫〉イザモルド。自らの名前を得て、今は妖魔の王と呼ばれるかつての妖魔使いは、滅亡した北方王国の音楽を求める青年アストラを道案内に、大地に「春」を招くため〈氷姫〉の「魔法の庭」を目指します。「魔法の庭」に至る道とは、かつてアストラがうたったという「歌」……。

この世界では、音楽と名前が大きな力を持つため、「うたう」ことや「名を呼ぶ」ことは極めて大きな意味を持ちます。そして、これらの場面の描写がとても迫力があります。なかでも、「闇の御子」と呼ばれる神をうたう場面など、圧巻です。

魔法の庭1 風人の唄
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] 春日聖生
[出版] ファンタジーの森(プランニングハウス)
[ISBN] 978-4-939073-07-6
Amazon.co.jp
魔法の庭2 天界の楽
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] 春日聖生
[出版] ファンタジーの森(プランニングハウス)
[ISBN] 978-4-939073-15-1
Amazon.co.jp
魔法の庭3 地上の曲
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] 春日聖生
[出版] ファンタジーの森(プランニングハウス)
[ISBN] 978-4-939073-25-0
Amazon.co.jp

NAGA 蛇神の巫

日本神話をベースにした現代伝奇ファンタジーです(たぶん)。代々蛇神を祭ってきた旧家、正月に行われるという蛇神と巫の儀式、蛇神に憑依された青年、など割とよく見かけるネタで始まる話ですが…………終章が強烈に印象に残りました(これから読もうと思っている方は、絶対に先に見ないように(笑))。ところで、この作品における「神」の概念って、多くの日本人にとって受け入れやすいものなんではないか、と思います(「日本的」といってもいいかも)。そのせいで、余計にラストが印象に残るのかもしれません。

NAGA 蛇神の巫
[著者] 妹尾ゆふ子 [イラスト] 菅原健
[出版] ハルキ文庫(角川春樹事務所
[ISBN] 978-4-89456-756-6
Amazon.co.jp
http://www.matsubokkuri.net