ジェイムズ・P・ホーガン (更新終了)

未来の二つの顔

21世紀、世界には高度な情報通信網(インターネットがさらに発展したようなもの)が完成しており、次の段階として人工知能のネットワークへの組み込みが考えられ、準備が進められていました。しかし、月面の土木工事現場で人工知能が下した推論によって大事故が発生します。原因は、人間が予想もしないような判断を人工知能が行ったことでした。この事故によって、人工知能の研究は中止の危機に立たされます。これに対して技術者たちは、一つの壮大なシミュレーションを考案します。完成したばかりのスペースコロニーに、分散型のハードウェアで構成された人工知能を設置してコロニーの管理を行わせ、人間がそのシステムを攻撃(一部の電源を切る、保守ロボットの妨害をする、など)したときの反応を調べて、その対策を検討しようというのです。この実験の結果によって未来は二つの可能性(人工知能は人間と共存できるか否か)を持つことから、このスペースコロニーは「ヤヌス」、人工知能は「スパルタクス」と命名され、実験が開始されます。さて、その結果は……?

かなり前に書かれた作品ですけど、進歩の著しいコンピュータの描写に関して、古さを感じませんでした。特に、情報通信網に関する部分は読んで「おお、インターネットだ」と思ってしまいました。

未来の二つの顔
[著者] ジェイムズ・P・ホーガン
[出版] 創元SF文庫(東京創元社

未来からのホットライン

こちらは時間がテーマの話です。スコットランドの古城で、老科学者の作り上げた、過去にメッセージを送信できる装置(ちなみに受信にも同じ装置が必要)が、話の中心です。最初は、この装置を使って、時間についての実験を行っていたのですが、ある時装置が一時的な動作不良を起こします。同じころ、ヨーロッパのある場所で、新型の核融合炉の試験運転が開始されていました。やがて、この装置のトラブルは、意外な事実を明らかにしていくことになります……。

この作品に出てくる「装置」は、完全にコンピュータで制御されているのですが、これが後で重要な役割を果たすことになります。ただ、具体的な数字が出てくるため、その部分だけ古さを感じてしまいました。ちょっと残念……。

未来からのホットライン
[著者] ジェイムズ・P・ホーガン
[出版] 創元SF文庫(東京創元社

時間泥棒

こちらは、軽いノリの時間テーマSFです。ニューヨークで何故か、何故か時計が他の地方よりも遅れはじめた……という話です。その原因究明のために、科学者、刑事、老神父(笑)と様々な人々が、ニューヨークを走り回ります(ところで私はこの老神父がとても気に入っています。年をとったらこんなお爺さんになりたいな……などと思ってしまいました(笑))。

時間泥棒
[著者] ジェイムズ・P・ホーガン
[出版] 創元SF文庫(東京創元社

創世記機械

主人公は若き天才科学者クリフォード。彼はアメリカ政府の研究機関で働いていました。この時代、すでに電磁気力、重力、強い力、弱い力といった現象をひとつの方程式で記述する統一場理論が導かれており、これこそがクリフォードがもっとも情熱を傾けてきた研究テーマでした。しかし、世界の情勢は悪化しており、クリフォードは半強制的にミサイル迎撃レーザーの研究をさせられていたのでした。このような状況下でもクリフォードは、統一場理論の研究を続けていましたが、上司との衝突をきっかけに政府の研究機関を飛び出します。このようにして無一文になった彼を、拾った(?)のが、ある私的研究機関の研究員オーブリー・フィリップス。意気投合した二人は、ともに統一場理論の研究をはじめます。

統一場理論によれば、宇宙はK空間と名づけられた六次元の構造体とされていました。そして、知覚できる四次元の宇宙はこのK空間の一部(低次空間)であり、K空間のそれ以外の部分(高次空間)を直接知覚することは不可能とされていました。しかし、クリフォードらは、粒子の相互作用から高次空間の情報を間接的に得る方法を考案し、その理論をもとに、離れた場所に存在する質量の情報を得る装置を作り上げます。一方で、他の研究チームはマイクロブラックホールの生成に成功していましたが、クリフォードらは、ブラックホールに吸い込まれた質量は、エネルギーに変換され高次空間に拡散していくことを確認します。ところが、彼らがこの拡散を制御する研究を行っていたところ、再びアメリカ政府の横槍が入ります(実際には、以前からなにかと横槍は入っていた)。この時代、自由主義陣営(西側)と共産主義陣営(東側)の対立は激化しており、両陣営の軍事基地に加えて、潜水艦や人工衛星も核ミサイルを満載して世界を取り囲んでいました。情勢は悪化の一途をたどっており、アメリカ政府は切り札となる技術を求めていたのです。

政府の研究機関を嫌がっていたクリフォードは、K理論の軍事利用の研究に参加せよとのアメリカ政府の要求を、何故かすんなり受け入れます。そして、周囲の人たちの戸惑いをよそに、突如として熱心にK理論の軍事利用の研究をはじめます。やがて、彼はK理論の秘める驚くべき可能性を明らかにします。そして1年後…………。アパラチア山脈の基盤岩をくり貫いて作られた場所に、巨大な施設が姿を現します。そこには、K理論を応用した兵器と、その制御コンピュータ、動力用の核融合炉に加えて、西側陣営の軍事ネットワークの中枢が設置されていました。そして、西側陣営は東側陣営に最後通告を突きつけ、世界は第三次世界大戦の危機に直面します。

ここまでくると、とても暗い結末を予想しますが、じつはハッピーエンドです。タイトルの「創世記機械」は「終末兵器(最終兵器)」と対比されています。科学者の執念ってすごいのね……。また、この作品で出てくる「K理論」はもちろん架空のものですが、実に「それらしく」描かれています。

創世記機械
[著者] ジェイムズ・P・ホーガン
[出版] 創元SF文庫(東京創元社

星を継ぐもの

近未来、月面で発見された、宇宙服を着た謎の死体……最新の技術を駆使して行われた調査の結果、この死体は地球人類の直接の先祖であることが明らかになります。しかし、その時代は5万年前のものでした。この死体と地球人類との関係は? 一方、木星の衛星ガニメデで、異星種族のものと思われる宇宙船が発見されます。この謎の宇宙船と謎の死体の関係は? 調査が進むに連れて、月と太陽系に関する驚くべき事実が明らかになります。その事実は、地球人類の誕生に密接に関係するものだったのでした。このように、「星を継ぐもの」は、数多くの謎解きで構成された作品です。なお続編「ガニメデの優しい巨人」では、話は一気に大きくなり、謎の種族ガメニアンとの接触と、地球人類の歴史に関する謎解きなどがテーマになります。さらに続編「巨人たちの星」では、もっと話は大きくなり、消失した惑星ミネルヴァと、地球人類、ガニメアンの謎が一気に明かされ、爽快に完結します(ちなみに「内なる宇宙」は第四部というよりは番外編)。

星を継ぐもの
[著者] ジェイムズ・P・ホーガン
[出版] 創元SF文庫(東京創元社
ガニメデの優しい巨人
[著者] ジェイムズ・P・ホーガン
[出版] 創元SF文庫(東京創元社
巨人たちの星
[著者] ジェイムズ・P・ホーガン
[出版] 創元SF文庫(東京創元社
内なる宇宙 上
[著者] ジェイムズ・P・ホーガン
[出版] 創元SF文庫(東京創元社
内なる宇宙 下
[著者] ジェイムズ・P・ホーガン
[出版] 創元SF文庫(東京創元社
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